2009年9月16日水曜日
海里って1分のことだったのですね
2009年9月9日水曜日
新型潜水艦そうりゅうのAIP性能を考える、とか言って中身は計算練習。
やっぱり計算を間違えているっぽいから計算方法を調べな直した方がいいみたい。
目次
力学的な話
水中での最大出力は8000馬力となっているけど、積んでいるAIP機関はそうりゅう型潜水艦:Wikipediaによると75kW=102馬力となっているから4機合わせて408馬力。8000馬力は電動モーターの出力なのだろう。
水中だから造波抵抗は無し、Wikipediaによれば粘性圧力抵抗は流線型で極小となり、粘性摩擦抵抗は流速に比例するらしい。極小となるなら圧力抵抗の方は無視しよう。他にも渦を起こす事で生じる抵抗とかもあるらしいが、摩擦抵抗だけ考えて他は無視してしまおう。
本当に無視してよいのかは甚だ疑問だけど、先に進みたい。
運動している物体は邪魔するものが何も無ければ永遠に同じ速度で運動し続ける。 ところが、空気中や水中で運動する物体は、空気や水との摩擦抵抗によって運動エネルギーを奪われ、運動エネルギーが減衰してしまう。すると速度は遅くなり、最終的には静止状態となる。
空中や水中で一定の速度を維持するというのは、摩擦によって失った運動エネルギーを補い続ける作業と言い換えることができるでしょう。
摩擦抵抗によって奪われる運動エネルギーの大きさはどれくらいだろう。8000 馬力で毎時20ノットの速さが出せるそうなので、8000馬力というのはだいたい5880[kW]なのだけど、これはつまり毎秒5880[kJ]の熱エネルギーを海に奪われ続けることによって毎時20ノットの速さを維持していることになる。
この時、推力は最大で、最大の推力と抵抗の力がつりあったところが最大速度となる。
抵抗と言うのは力なので、エネルギーではないし仕事率でもない。どうやって計算したら良いのかと頭を悩ましながら検索したら参考になりそうなのを見つけた。
「新しい船底塗料(LF-SeaR)の実船における摩擦抵抗低減効果の検証」 http://www.nipponpaint.co.jp/r&d/tc22/k3.pdf
あら、E=F*L、普通に 力 × 距離 [N・m] でよかったのね。
つまり、
エネルギー[J]=力[N]×距離[m]
で表現される。
すると Wikipedia の記述どおりに粘性摩擦抵抗が速度に比例するのであれば、20ノット(10.28m/s)で5880kWなら1秒で約10.3m進み、5880kJ消費することになる。
5880*10^3=F/10.3 F=571*10^3 [N]
抵抗力は約571kNと計算できる。同じように10ノット(約5.14m/s)では1秒で約5.14m進み、今出した571kNの半分の約286kNが抵抗力、すると消費されるエネルギーは E=F*L だから E=286kN * 5.14m = 1470 kJ となり要求されるエンジンの出力は1470kWとなる。馬力に直すとちょうど2000馬力。
おやおや、これは2乗で効いているようだ。1/4の5ノットで計算してみようか。 143kN*2.57m=367.5 kJ だいたい500馬力ってところか。やはり2乗で効いているようだね。
ところで、このAIP機関の発電機としての性能は 60 [kW] という情報があるので、使用可能な出力は 60 * 4 = 240 [kW] で計算した方が良さそうです。
そこで AIP機関4機の合計出力 240 [kW] で計算してみます。
単純な2次関数で扱って良いなら W=14.7 * v^2 , v=sqrt(W/14.7) だから W=240 だと 4.04、約 4.0 ノット。
以前は抵抗力の計算を怠けたので1ノット前後とか、とんでもない値が出てしまいましたが、今回はまともな値が出ました。
化学的な話
熱機関としてのAIP機関、75×4=300kW フル稼働させた時に1時間あたり発生できるエネルギーは、300000*3600=1080000000[J] =1080[MJ]となる。
それで灯油を燃やすからには酸素が必要で、2週間潜りっぱなしなら相当な酸素を持参しておく必要があるでしょう。なにか参考になる資料は無いかと探したんだけど見つからない。となると自分で計算するしかないので・・・。勉強勉強。
まず、灯油1リットルあたりの燃焼で生じるエネルギーについて調べる。
ところで発熱量について調べていたら高位発熱量と低位発熱量と言うものが出てくる。
単純に発生する総発熱量から熱機関の効率を考えれば良いのかと思っていたが、下記によると熱機関の効率には低位発熱量を使う必要があるらしい。
高位発熱量と低位発熱量(日本冷凍空調学会のホームページより)
都合の良いことに、このページには灯油の低位発熱量が載っていて 43.5 [MJ/kg] となっている。
しかし、Kerosene - Wikipedia. によれば lower heating value は 43.1 [MJ/kg] となっている。
ところで理科年表を見ると灯油の高位発熱量には44~47 [-ΔcΗ/kJ・g-1] と書いてある。ということだから灯油といっても品質等によって発熱量に開きがあるようだ。単位を[MJ/kg]に直すと 1[g]×103=1kg/1[kJ]×103=1[MJ] なのでそのまま[MJ]と読み替えてOKだった。
それから Wikipedia には higher heating value is 46.2 [MJ/kg] となっていて、平均的な値を採っているのだと思う。
また、燃焼熱について調べていると、やたらと燃焼エンタルピーという不思議な用語が目に付く。これの説明は下記に見つけた。
さて、今回の計算を行う上での灯油の燃焼エネルギーを決める必要がある。また必要な酸素の量や排気ガスの容積も知りたい。
http://en.wikipedia.org/wiki/Kerosene によると
C12H26(ℓ) + 37/2 O2(g) → 12 CO2(g) + 13 H2O(g); ∆H˚ = -7513 kJ
C12H26 の分子量は 12*12 + 1 * 26 = 170 になる。
37/2=18.5 で灯油 1 [mol] あたり 18.5 [mol] の酸素(O2)が必要。
したがって、気化した灯油22.4リットルは170[g]となり、液体の灯油の比重が約0.8なので、1 [mol] の液体の灯油の体積は 170/0.8=212.5[ml] なので、22.4/0.2125=105.4 となり気体の灯油は液体の灯油に対して約100倍の体積に膨らむ。予想では800倍くらいと思っていたから大外れ。
18.5[mol] の酸素(O2)は 18.5*22.4=414.4 リットル。 液体の灯油1リットルは800g程度で灯油 1 [mol] は170[g]だから 800/170=4.7 [mol] となり、必要な酸素量も 4.7 * 414.4 = 1950 リットルとなる。
これで計算すると灯油 1 リットルで発生するエネルギーは 4.7[mol]×7513 kJ = 35.25 [MJ] になるのだが、これは高位発熱量だろう。さっき調べた 46.2 [MJ/kg] * 0.8 = 36.96 [MJ/ℓ] と完全には一致しない。この計算だと高位発熱量は 44 [MJ/kg] となりそうだ。
高位発熱量 46.2 [MJ/kg] に対して低位発熱量は 43.1 [MJ/kg] で 0.93 程度の比率になるから、44 [MJ/kg] にも 0.93倍した約 41[MJ/kg] 、32.7 [MJ/ℓ] となるだろう。
石油系燃料の発熱量によれば石油系燃料の発熱量はガソリン、灯油、軽油の区別なく、約 44 [MJ/kg] と解説されていることもあり、排気ガスの容積を求める必要から 44 [MJ/kg] に合わせてしまって良いと思う。
実際は灯油に含まれる分子の全てが C12H26 とは限らないとしても、密度が高くなれば 1 [mol] の燃焼に必要な酸素が多く必要になるものの、エネルギー密度が高い分、単位時間当たりに消費する燃料は少なく済むし、それにともない酸素の消費量も結局は同じになるに違いない。せいぜい燃料タンクの容積が数パーセント増えたり減ったりする程度の違いだから燃料 1リットルあたりの発熱量の微々たる差は無視しても構わない。
スターリングエンジンの熱効率が分からないので調べてみると良い資料を見つけた。
http://www.iae.or.jp/publish/kihou/29-1/07.html
これによるとスターリングエンジンの実用的な出力範囲は 100 [kW] 辺りが上限になるらしい。だから4台になったんだね。
75 [kW] くらいのエンジンの熱効率を参考にすると、だいたい35%くらいになるようだけど、海中動力用スターリングエンジンについて「スウェーデンのコッカムス社で開発された75kWスターリングエンジンは,40%以上の熱効率に達し」と書かれている。この40%という値を採用すると取り出せるエネルギーは灯油 1リットルあたり 32.7 * 0.4 = 約 13 [MJ] となる。
1時間で消費する灯油の量は 1080/13 = 83 リットルとなるらしい。一日あたり 83*24 = 1992 リットル、2週間(14日)分だと 27888 リットルになる。
1時間当たり 83 リットルの灯油を燃やすのに必要な酸素の量は 83*1950=161850 リットル、約162 [m3]程度。一日だと 83*24*1950 = 3884400 リットル、約 3884 立方メートル。14日分だと約 54382 立方メートルとなる。
更に、排気ガスの容積を知る必要があるので、上記の化学式によれば、 灯油 1 [mol] + 酸素 18.5 [mol] が燃焼すると、 12 [mol] の 二酸化炭素(CO2) + 13 [mol] の水蒸気(H2O)つまり、
二酸化炭素: 12*22.4=268.8[ℓ] 水蒸気: 13*22.4=291.2[ℓ] が生じるらしい。
灯油 1 リットルは 4.7 [mol] だったので、灯油 1 リットルあたりだと、
二酸化炭素: 4.7*12*22.4=1263.36 [ℓ] 約1263リットル 水蒸気: 4.7*13*22.4=1368.64[ℓ] 約1369リットル
が生じると予想できる。
なので、一時間あたりに発生する排気ガスの容量は、 消費する灯油の量を 83 リットルとして
二酸化炭素: 83*1263=104829[ℓ]、約105立方メートル 水蒸気: 83*1369=113627[ℓ]、約114立方メートル
となるらしい。
これでAIPで使う2週間分の酸素と灯油の量の見当がついたことになるのかな。
必要な燃料と酸素と生じる排気ガスの量
2週間分の燃料の灯油: 約27888リットル(液体) 2週間分の気体の酸素: 約54382立方メートル(気体)
更に、一時間あたりに発生する排気ガスの容量は
二酸化炭素: 約105立方メートル 水蒸気: 約114立方メートル
となるようだ。
酸素タンクの容量は200気圧ならば272立方メートル程度に収まる計算。容積が馬鹿にならない。
実際には液体酸素の形で保存しているらしく、酸素 1 [mol] は 32 [g]、液体酸素の比重は 1.14 だから、1リットルの液体酸素の重さは 1.14 [kg] で、32 [g] で割ると 35.6 [mol] になって、798リットル。気化したらだいたい800リットルになる。
計算方法を調べていて分かったけど、空気1立方メートルって1kgくらいの重さがあったんだね。もっと全然軽いと思っていた。
それで、気体の酸素と液体の酸素の体積比は800:1で、54382 立方メートルの気体の酸素なら、約 68 立方メートルの液体酸素として収まる計算。
この型は全幅が 9.1 [m] で、AIP機関搭載テストをした「あさしお」は全長が 9 [m] 延長されているので、AIP機関の搭載区画はだいたい 9 [m] × 9 [m] 程度の大きさだと思うので、直径 1.6 [m]、長さ 8.5 [m] 程度のタンクを4つ用意すればちょうど良い感じに 68 [m3] になる。
2週間程度の連続潜航が可能と言っても、24時間14日間ずっとエンジンを動かし続けているわけではないだろうから搭載する酸素の量はもっと少なくても良さそうである。
深々度での排気に要する損失
さて、コメントでも指摘されていた通り、エンジンの効率を考える場合、排気ガスを海中に排気するためのエネルギーは無視できません。この加圧用のエネルギー損失を考えて見ます。
しかし計算方法が間違っていたようなので、また計算方法を調べないといけない。
ちなみに、二酸化炭素は水に溶けるので水蒸気と一緒に復水器に送れば、液化した水に二酸化炭素は溶けてしまうので体積が少し減ります。更に、二酸化炭素を圧縮すると同時に冷却すれば更に体積が減り圧縮作業の効率が良くなります。排気ガスを積極的に冷却するという行程を含んでいれば、圧縮に要するエネルギーの損失は上記の計算結果よりも小さくなるでしょう。だけど冷却水を循環させるポンプの動作にもエネルギーを消費するので、実際どうなるかはわかりません。
AIP機関に期待できる速力の限界
圧縮に要するエネルギーの計算が分からなくなってしまったので、考え中です。 水圧が2.2[MPa]を超える場合どうなるか分からないので載せるのをやめました。
推定速力[ノット] 水深[m] 40% 60% 80%(排気ガス圧縮の効率) -------------------------------------------- 200未満 4.0 4.0 4.0
あまり出力が低いと効率が悪いかもしれません。多かれ少なかれバッテリーを消耗しながら 4~5ノット前後を実現しているでしょう。
目的地まで10ノット前後で効率よく移動して、目的の地点で海中に留まりながら AIP機関を使って再度充電するという運用方法もあるでしょう。ようするに運用の自由度が上がったのでしょう。
そうりゅうの最大運用深度がどの程度か知りませんが、600 [m] より深いという事は無いでしょうからこれくらいの性能があれば良いのではないかと思います。
とりあえず、仮に4ノットで2週間ほど移動を続けたら 14日×4ノット毎時 = 1344海里、約 2500 [km] となるので、日本列島よりは短いけど、それなりの脅威と考えて良いのではないかな。
それにしても計算間違いが多い。自信をなくす。